2020年体験・実践作文入賞作品を紹介します。今回はあおいが第3位に選ばれました。おめでとう!!
ぼくは、今までの自分とはちがう。
もう、勝ち負けだけにこだわっている自分ではない。それは、今までに戦って来た中で、感じたことのない気持ちだった。
ぼくの道場には、剣道が強い先輩がたくさんいる。日々そんな先輩達に少しでも近づきたいと稽古に励んできた。
「早く強くなりたい。早くレギュラーに選ばれたい。」と、ただそれだけを目標に毎日毎日、練習を積み重ねていた。ぼくが四年生の頃は、レギュラーにすら選ばれずに、ただただ、観客席で応援していることがほとんどだった。
「今の実力では到底本メンバーには入れない」と心の内で感じていた。当時は、錬成会に行っても、ただ相手に竹刀を当てて、一本取る事しか考えていなかった。一本取れればそれで満足だった。
そんな事だけ考え一年が過ぎた。五年生になり、やっと本メンバーに選んでもらえる機会が増えた。地元の大会では勝てる事が少しずつ増えていった。しかし、いざ大きな大会で自分より強そうな相手を前にすると、やはりそう簡単にはいかなかった。試合相手が「強そうだから」という自分の気持ちがどこかに生まれた。「一本取られたらどうしよう」という気持ちに支配された。結果、負けてしまう。団体戦では、自分が負けた為に仲間の足を引っ張った。くやしかったし、剣道が少しいやになってしまった。次第に日々の稽古もつまらなくなっていった。
そんなある日、先生が僕に一言、言った。
「剣道で勝つ事は大切だ。しかし勝ち負けの結果が大切なのではなく、勝つまでの道のりが大切なのだ」と。「たくさんの試合の中で、負ける時は必ずある。むしろ負ける事の方が多いかもしれない。けれど負けを受け入れ、日々の地道な稽古で、少しでもよくなろうと自分に厳しく積み重ねていかないといけない。基本を大切にして、勝つ人が本当に強い人だ。」と。僕は、「はっ」とした。勝ち負けの結果しか見ようとせず、また、負けた事にふてくされて、日々の稽古を適当にしていた自分を恥ずかしく思った。同時に、負けの恐怖に支配され、剣道の楽しさを全く忘れていた自分に気がついた。
その日から、僕の気持ちは少しずつ変わって行った。相手に竹刀を当てる為にではなく、自分のかっこいいと思える剣道に近づく為に、日々の稽古で、課題を持って取り組もうと決めた。確かに日々の稽古を振り返って見ると剣道は礼に始まり礼に終わる。黙想では、心を鎮めその日の自分の課題と反省を心の中で唱える。また、剣を向ける相手がいないと剣道は出来ない。道場で稽古ができる環境を与えてくれている先生はじめ保護者の方や、仲間に自然と感謝の気持ちもわく。
僕は気づいた。剣道が強いという事は、相手に竹刀をバシッと当てる事ではない。相手から、一本取る為に日々自分や周りの人に目を向け、自分と正面から向き合う事ではないかと。剣道は自分勝手に竹刀を振り回して、相手に当たりさえすればいい競技ではないと。
新型コロナウイルス感染症の流行で、稽古ができない日々が続いたが、今は、日々の稽古ができている喜び、仲間がいて、剣道ができる事に感謝して、少しでも強い剣士になりたい。いつか兄と対等に剣を交えることができるくらい、心も体も日々の稽古で鍛練したい。
剣道は、僕に教えてくれた。剣道は自分との戦いだということを。自分に負けず進んでいきたい。